Ftarri / Ftarri Classical

渋谷由香

Found Moment

CD
ftarricl-660
限定300部
2024年1月28日発売


  1. 円窓からの眺め2 (2018) for piano (5:55)
  2. Traces of Thirds 1-b (2014/2021) for violoncello and piano (7:09)
  3. コスメティック・ダンス2 (2012) for viola (12:11)
  4. 尾花 (2012) for viola and piano (9:05)
  5. Found Moment (2021) for two pianos tuned to different quarter tones (10:12)
  6. コスメティック・ダンス (2007) for piano (12:55)

    Bandcamp にて、一部視聴できます。

作曲:渋谷由香

井上郷子:アップライト・ピアノ (1, 6)
大野志門:アップライト・ピアノ (2, 4, 5)
細井唯:チェロ (2)
迫田圭:ヴィオラ (3, 4)


曲解説(渋谷由香)

1. 円窓からの眺め2 (2018) for piano
5分程度の作品で、2016年に作曲した「円窓からの眺め」という2分ほどのピアノ作品と関連を持つ。「円窓からの眺め」では、時間の感じ方は人それぞれだが、作品における2分という時間が、とてつもなく長い時間であり、同時にただ一瞬でもあるような時間のあり方についてアプローチした。

「円窓からの眺め2」では、前述と同様のアプローチを試みるというよりは、「円窓からの眺め」での作曲で得た大きな収穫に目を向けた。それは、音やフレーズの繋がりは全く消し去ることや分断することはできないが、むしろ繋がりの気配や解釈の余地をあえて残すことによって結果的に繋がりが反対に見えにくくなるということ、また休符とペダリングを意識的に扱うことによって音やフレーズを背面に配置することができるということの2点である。

2. Traces of Thirds 1-b (2014/2021) for violoncello and piano

この作品は、2014年にフルートとピアノの作品として作曲、初演された。この作品で、ピアノには3度音程、フルートには重音奏法を多く用いています。平均律に調律されたピアノの3度、そして旋律楽器であるフルートによる重音から生じる音程というのは、ピアノとフルートという楽器が本来持っている特性からすれば、その性質を活かした音色や演奏上の効果はあまり発揮できないような音程ということができるかもしれません。このような、楽器が元来持っている特性を活かしきれない音程、そして協和 / 不協和の観点からみれば、こぼれ落ちてしまうような音程に、近頃はとてつもない愛着を感じます。(初演プログラムより転載)
多用されているフルートの重音奏法はチェロの重音を伴うハーモニクス奏法で演奏される。元来、高音域のフルート・パートをチェロ・パートに置き換えることは、音域の違う2つの楽器にとって不自然でもあるが、チェロにとっての異常な高音域を演奏することによって生じる不安定感を意図している。

3. コスメティック・ダンス2 (2012) for viola
はらはらと 砂時計
黄色と紫色のリズム
ぷっかぷっかと宙に舞う西瓜
かかとをあげてステップを踏む少女

ひとつの世界がはじけていく
はじけたあとにのこるのは
つながっていくひとつの記憶ではない
纏っていた衣服は
ぬぎすてられ
路上の石ころは
ブローチではなくボタンになって
身に纏われる

この曲は名前のついた4曲から成り、通常の調弦ではなく、変則的に特殊に調弦されたヴィオラによって演奏されます。(以上初演プログラムより転載)
変則的な調弦のせいもあり、長らく再演の機会がなかった作品。初演当時、私が関心を持っていたことが鮮明によみがえってくると同時に、現在の私との距離も改めて感じることができた。

4. 尾花 (2012) for viola and piano
この作品は、2012年「画家 酒井邦夫 親子展」のレセプションのために酒井邦夫さんと長女のヴィオラ奏者、酒井雅のさんから委嘱を受け作曲し、酒井雅のさんと佐藤麻以子さんによって初演された。作曲する前に酒井さんの油絵を何点かみせていただいてから作曲をするという、自身にとっても初めての機会だった。曲は性格の違う2つの楽章からなっている。

5. Found Moment (2021) for two pianos tuned to different quarter tones

この曲は、以前作曲したピアノ曲で用いたコンセプト~ とてつもなく長い時間であり、同時にただ一瞬でもあるような時間について~ の延長線上にある。実際には、短いフレーズの断片をいくつかのパターンに分けて準備し並置していく。さらにこれらのフレーズが、ほとんどの場合反転し、そして反復していくという方法をとっている。また、4分音違いに調律された2台のピアノは、全体にわたってほぼリズムがユニゾンで演奏される。調律の違う2台が対峙することなく、ひとつの楽器として新しい景色が拡がる事を望んで作曲した。最後に、この曲を作曲するにあたって、C. アイブズが4分音について書いている文章 "Some Quarter-Tone Impressions" と、そして F. シューベルトの "Moments musicaux" やその他晩年の作品から大きな示唆を受けたということも付け加えておきたい。(初演プログラムより転載)
この演奏は、事前に Ftarri のアップライト・ピアノで第2パートを録音、その録音した音源を4分音下げた音源と同時に、第1パートを生演奏していただいた。

6. コスメティック・ダンス (2007) for piano
いびつなステップをふむコンパス
ころころ変わる知らない人の言葉
ゆらゆらとたゆたう波打ち際に
舌の上を転がる溶けた飴玉


私にとっての初めてともいえるピアノ作品。当時はまだ大学生で、よく井上郷子さんのコンサートに通っていた。そして私もピアノ曲を書いてみたいと思い、曲を完成させた。少し経ち、また郷子さんのコンサートを聴きに行った際、終演後この楽譜をお渡しした。学生であり一聴衆の私が直接楽譜をお渡しすることは、非常に緊張する経験だった。今でもその時の事は鮮明に記憶している。作品は4曲セットになっていて、どれも二声あるいは三声からできている。一曲一曲は、ちいさな似かよったフレーズのかたまりが連なってできた音の蓄積である。それぞれにこだわりのタイトルをつけ、各曲は異なるタイトルを持つひとつの時間として区切られている。各曲で使われる音は、それぞれ限られた数音だけを使用し、同じ高さの音や、非常に似かよったフレーズが反復される。当時の私は、反復や限られた音程を使用して、一音一音の関係性の中で音を蓄積させていくような音楽のありかたを模索していた。ありがたいことに、2008年に郷子さんの東京でのリサイタル「ミュージック・ドキュメント 08」で初演していただき、その後も何度か国内外で再演を重ねていただいている作品。


東京在住の作曲家、渋谷由香は、井上郷子の演奏によるピアノ作曲作品集『Works for Piano』を 2021年に Ftarri Classical レーベルよりリリース。そして今回、同じ Ftarri Classical から渋谷由香の作曲6作品の演奏を集めた新たなCDの発売となった。

今作は、東京 Ftarri のスペースでのライヴ演奏集。2021年9月20日のコンサートから、井上郷子 (アップライト・ピアノ) による「円窓からの眺め2」(2018) と「コスメティック・ダンス」(2007) の2曲。そして2021年12月13日のコンサートから、細井唯 (チェロ) と大野志門 (アップライト・ピアノ) による「Traces of Thirds 1-b」(2014/2021)、迫田圭 (ヴィオラ) による「コスメティック・ダンス2」(2012)、迫田圭 (ヴィオラ) と大野志門 (アップライト・ピアノ) による「尾花」(2012)、大野志門 (アップライト・ピアノ) による「Found Moment」(2021) の4曲。


Last updated: January 29, 2024

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