Ftarri / Ftarri Classical

多井智紀

Paraphrase on Shichikushoshinshu [1664]
《糸竹初心集》によるパラフレーズ

CD
ftarricl-662
限定200部
2022年12月25日発売


  1. Paraphrase on Shichikushoshinshu [1664] (52:29)
    《糸竹初心集》によるパラフレーズ

    mp3 excerpt: track 1

多井智紀:自作楽器(コイルド・チェロ、電気装置、ビーチボール・エアバッグ)、鍵盤ハーモニカ


『糸竹初心集』は、寛文4年に出版された一節切、箏(琴)、三味線の三種類の楽器の入門書である。当時よく知られたであろう歌12曲と器楽曲が掲載され、歌詞と指使いが掲載されている。上中下巻の3部に分かれ、下巻の三味線の部分は刊行された三味線「譜」として日本最古のものである。

『糸竹初心集』の序文の部分には、こう書かれている。意訳してみると、

この本は、「一節切の尺八を、誰にも習わずに吹き方を覚える」、「琴、三味線を、誰にも習わずに弾き方を覚える」ための本です。演奏法を心得ている人の為の本ではありません。演奏法を知らない人のために、もしかすると何かの役に立つかもしれないという想いで書いたものです。だからといって、弾ける人が読んだらヘタになる、わけでもありませんが。この本の趣旨を踏まえた上で、歌を空で覚えているならば、なんとかなると思われます。もし、この本で練習をすれば、曲の演奏に際して、心の拠り所ができることでしょう。そうすれば、この本に載っていないどんな曲でも、吹いたり、弾けるようになるのです。そんなワクワクする未来を想像しながら、どんどん読んでいってもらいたいと思います。
『糸竹初心集』の挿絵には、三味線を弾く法師の後方、床の間に、琵琶を置いているのが描かれているし、三味線を初めて弾いたのは石村検校で、彼が琉球の島に行った際に現地で「小弓」という三弦の楽器を弾いた経験から、琵琶をダウングレード化して三味線を作った、ということが書かれている。

琵琶と同じ四弦楽器であるチェロの奏者である私が、この最初期三味線音楽のために新たに楽器を作ってみてもよいだろう、と考えた。ちょうど、"violoncello" という楽器名の初出版は1665 年で、『糸竹初心集』の一年後なのである。どんな楽器を新しく作るか。まずは、チェロ奏者なら誰でもすぐ弾けるものにしよう(楽器が出来上がってから、数人の私の友人のチェロ奏者に試奏してもらったところ、実際、皆すぐに弾けた)。

歌詞が書かれているが、いわゆる音符のような音の長さに関する情報が無い。それならば、音を止めない限り、なるべく勝手に鳴り続けてしまうような機構の楽器を新しく作るのはどうか。スピーカーユニットを撥にしてハウリングさせてみよう。指の押さえる場所説明については「5寸(15 cm)ほど下を押さえる」、「乳袋(三味線の糸巻きの下の少し膨らんでいる部分)のキワを押さえる」とある。しかし、キワと言われても、どのくらいキワなのか。そのキワ具合を演奏しながら確かめていくしかない。弾いた音に対して、主に電気回路の偶発的な干渉を起こすことによって、わずかな音高差が音自体の大きな違いに変換されてしまうのはどうか。調弦に関しては、「三味線の調子は、御承知の通り笙から出たもので、従って調子笛は昔は笙の笛師が作ったもので、随分よいのがありました」(『道八芸談』より)というのを読んだことがあり、ビーチボール・エアバックを自作し鍵盤ハーモニカを鳴らして代用した。

CDのタイトルは『糸竹初心集によるパラフレーズ』とした。(多井智紀)


多井智紀は1982年生まれ、東京在住のチェロ奏者。クラシック音楽 / 現代音楽をメインに、即興音楽や古楽を含む多方面での演奏活動を続ける気鋭の音楽家。チェロ以外に、自作電気楽器やヴィオラ・ダ・ガンバの演奏もおこなう。

『糸竹初心集』は、江戸時代の1664年に出版された、一節切尺八、箏、三味線の三種類の楽器の入門書で、当時流行ったと思われる歌の歌詞と指使いが掲載されている。多井は、『糸竹初心集』の(日本最古のものである)三味線「譜」を演奏するために、新たに楽器を作ることを決意。こうして自作の電気弦楽器 coiled cello を制作し、2021年に『糸竹初心集』三味線「譜」を演奏するコンサートを数回おこなった。そのひとつが2021年6月20日、東京「Ftarri」でおこなわれ、本アルバムにはその52分の演奏1曲を収録している。

実際に演奏するにあたって当時の楽譜の情報は不十分なのだが、多井は自作楽器を使うことで独自の発想を巧みに表現し、『糸竹初心集』に掲載された三味線「譜」全10曲を通しで演奏してみせる。 自作のビーチボール・エアバックを繋いだ鍵盤ハーモニカを調子笛の代用とし、それが柔らかな持続音を奏でる一方で、接触不良のような切れ切れの音を多く放出するノイジーな coiled cello が威力を発揮する。多井のチェロ奏者としての技量と、豊かな発想力・表現力が生み出した超話題作。


Last updated: December 2, 2022

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