CD
ftarricl-662
限定200部
2022年12月25日発売
多井智紀:自作楽器(コイルド・チェロ、電気装置、ビーチボール・エアバッグ)、鍵盤ハーモニカ
『糸竹初心集』は、寛文4年に出版された一節切、箏(琴)、三味線の三種類の楽器の入門書である。当時よく知られたであろう歌12曲と器楽曲が掲載され、歌詞と指使いが掲載されている。上中下巻の3部に分かれ、下巻の三味線の部分は刊行された三味線「譜」として日本最古のものである。
『糸竹初心集』の序文の部分には、こう書かれている。意訳してみると、
この本は、「一節切の尺八を、誰にも習わずに吹き方を覚える」、「琴、三味線を、誰にも習わずに弾き方を覚える」ための本です。演奏法を心得ている人の為の本ではありません。演奏法を知らない人のために、もしかすると何かの役に立つかもしれないという想いで書いたものです。だからといって、弾ける人が読んだらヘタになる、わけでもありませんが。この本の趣旨を踏まえた上で、歌を空で覚えているならば、なんとかなると思われます。もし、この本で練習をすれば、曲の演奏に際して、心の拠り所ができることでしょう。そうすれば、この本に載っていないどんな曲でも、吹いたり、弾けるようになるのです。そんなワクワクする未来を想像しながら、どんどん読んでいってもらいたいと思います。『糸竹初心集』の挿絵には、三味線を弾く法師の後方、床の間に、琵琶を置いているのが描かれているし、三味線を初めて弾いたのは石村検校で、彼が琉球の島に行った際に現地で「小弓」という三弦の楽器を弾いた経験から、琵琶をダウングレード化して三味線を作った、ということが書かれている。
多井智紀は1982年生まれ、東京在住のチェロ奏者。クラシック音楽 / 現代音楽をメインに、即興音楽や古楽を含む多方面での演奏活動を続ける気鋭の音楽家。チェロ以外に、自作電気楽器やヴィオラ・ダ・ガンバの演奏もおこなう。
『糸竹初心集』は、江戸時代の1664年に出版された、一節切尺八、箏、三味線の三種類の楽器の入門書で、当時流行ったと思われる歌の歌詞と指使いが掲載されている。多井は、『糸竹初心集』の(日本最古のものである)三味線「譜」を演奏するために、新たに楽器を作ることを決意。こうして自作の電気弦楽器 coiled cello を制作し、2021年に『糸竹初心集』三味線「譜」を演奏するコンサートを数回おこなった。そのひとつが2021年6月20日、東京「Ftarri」でおこなわれ、本アルバムにはその52分の演奏1曲を収録している。
実際に演奏するにあたって当時の楽譜の情報は不十分なのだが、多井は自作楽器を使うことで独自の発想を巧みに表現し、『糸竹初心集』に掲載された三味線「譜」全10曲を通しで演奏してみせる。 自作のビーチボール・エアバックを繋いだ鍵盤ハーモニカを調子笛の代用とし、それが柔らかな持続音を奏でる一方で、接触不良のような切れ切れの音を多く放出するノイジーな coiled cello が威力を発揮する。多井のチェロ奏者としての技量と、豊かな発想力・表現力が生み出した超話題作。