CD2枚組
ftarri-983
限定400部
2018年6月24日発売
価格 2,000 円 + 税
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Disc 1
Disc 2
今井和雄:ガット・ギター
Roger Turner:スネア・ドラム、トムトム、シンバル、ほか
日本の今井和雄と英国のロジャー・ターナー (Roger Turner) という、即興演奏の名手ふたりの出会いが生んだ名演奏。今井は高柳昌行と小杉武久に師事した、日本を代表する即興演奏家、ギター奏者。ロジャー・ターナーは、1970年代初頭より今日に至るまで世界各地で精力的に音楽活動を続けるドラマー、パーカッショニスト。2017年10月、ロジャー・ターナーは日本ツアーをおこない、各地で日本のミュージシャンと共演。このうち、10月11日、東京「Bar Ishee」での共演相手は今井和雄だった。今井はガット・ギター1本、ターナーはドラム・セット全体を組み立てることはせず、スネア・ドラム、タム・タム、シンバル、各種小物を使用し、電気的増幅なしの生音によるデュオ演奏。ガット・ギターの音の大きさに合わせて全体に抑え気味の音量の中で、ふたりがぶつけ合う音の多彩さとダイナミズムと妙味は特筆もの。本アルバムには、この日のファースト・セットを Disc 1 (32分) に、セカンド・セットを Disc 2 (37分) に完全収録。
2017年のロジャーの日本ツアーのうち、関東における11公演の中でも殊更素晴らしかった千駄木での今井とのデュオ公演を、録音として記録に残すことができて実に良かった (特にロジャーの演奏におけるその時々の音量は、その演奏スタイル同様、実に多様で、設定すべきマイク感度の予想が非常に難しい。勿論、本録音は幸いなことにマイク感度設定はうまくいった!)。
ハン・ベニンク、ポール・リットン、トニー・オクスリー、ポール・ローヴェンスなど、ヨーロッパには他にも個性溢れる優れた打楽器奏者が多くいるが、パワー系の演奏スタイルでも凄まじい演奏ができるにも関わらず、繊細なサステインの響きの美しさに最もその特徴があるロジャーの独自のスタイルは、その中においても一際独創的。 スティックをスティックで叩く / 擦るなどその他多くのロジャーの特殊奏法は、単なる視覚にアピールするパフォーマンスのみに終始することなく、勿論音響的にも大変面白い。そのロジャーの各種パーカッション、特殊奏法を駆使した多彩な音に埋もれることなく、ガット・ギター1本で音響を作りあげる今井も凄い。
また、そもそも音量バランスの関係上マイクを使用して音量を上げることなしに、ガット・ギターとドラムのデュオ (ロジャーはバスドラは使わなかったが) など、そうはない。ロジャーによる前述の微細なサステインの響きに特徴を持つ音楽性、ガット・ギターの音量に合わせた絶妙なダイナミクスのコントロールと、今井の強靭なアタック音を持つガット・ギターのスタイルの組み合わせだからこそできたもの。そしてここには奇をてらった変わった音というよりは、本来楽器が鳴らされるべき手本のような音が収められているように思う。
スペースの関係上、録音のためのマイクは、ふたりから1メートルも離れていないオン気味のワンポイント録音 (KORG MR1000によるDSD 5.6MHz録音) である。音響的にも優れたふたりの演奏は、その響きを活かすためにも、もう少しマイクは距離を取った方が良かったかもしれないが、細かい音使いが捉えられている点では、オンで録ってかえって良かったとも思う。彼らが演奏スペースのリバーブ感に頼らずとも、自らの演奏によって音響を創り出すことができることの証明にもなった。
本作の適切な再生音量については、11分30秒あたりのシンバルをフロアタムに擦り付ける演奏において、高音部が耳に痛く感じるほどまで音量を上げれば、実際の演奏に近いニュアンス (サステインの最後の一瞬までこだわった音の微妙な響きや、ダイナミクスの緩急をしっかりと感じ取ることができるレベル) で聴くことができると思う。
計68分というCD1枚に収めることも可能な収録時間でありながら2枚組にした理由は、ロジャー自身がファースト・セットとセカンド・セットの演奏の趣きの違いについても大変気に入り、その違いを強調したいというからだ。この違いは、ファースト・セットとセカンド・セットを違うように演奏しようという両者の意識以上に、ファースト・セットでの初デュオ演奏を経たことによる、「今井・ロジャー DUO」の大きな飛躍が両セットの間にあることに因るところが大きいと思う。今後もこのデュオは、さらに期待を大きく上回る発展を遂げるであろう。
松岡真吾