CD
hitorri-989
限定300部
2017年4月16日発売
価格 1,500 円 + 税
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今井和雄:エレクトリック・ギター
今井和雄 (1955年生まれ) は高柳昌行と小杉武久に師事し、1970年代から国内外で活動するギター奏者。即興音楽を中心に、フリージャズ、現代音楽、ノイズに至る多様な演奏をおこなっている。今井はエレクトリック・ギターを使ったソロによる大音量即興演奏を不定期ながら続けていて、本作には、その決定的名演とも言える2016年4月と9月のライヴ演奏2曲(どちらも25分を超える)を収録。めくるめく多層な音の渦が激流となって押し寄せる、まさに圧巻の演奏。しかも、単なる爆音の垂れ流しにはならず、25分超の演奏の中に変化とメリハリを利かせた構成力は、今井の即興演奏家としての素晴らしさをも如実に示している。
2012年7月11日、新宿ピットインでの今井和雄のエレキギターによる大音量の演奏を初めて聴いて以来 (その時の共演者は井野信義、藤川義明)、今井による大音量のエレキギターの演奏を収めたCDがあればと、ずっと思っていた (一応13分という短い収録時間ではあるが、今井がPSFからリリースした1stソロアルバム『How Will We Change?』の7曲目に、エレキギターによる大音量のソロが収録されている。またソロではないが、Incapacitants のボックスセット『アルケミー箱愚か Alchemy Box Is Stupid』のボーナスCD「Kazuo Imai & Incapacitants」においても、今井のエレキギターの大音量による演奏を聴くことができる) 。そもそも、今井の大音量のエレキギターのコンサート自体も貴重であった。
ところが2015年5月から、だいたい2、3カ月に1度くらいの頻度で、新大久保のアースダムでエレキギターのソロコンサートが行われるようになった (それ以前の今井による大音量エレキギターのソロコンサートとなると、2013年12月にまで遡る) 。それを記録になんとか残したいと思い、録音を試みたのが同年12月2日。しかし大音量による振動で、レコーダーの録音媒体であるHDDが演奏中に停止して録音失敗。その後もまた8回録音を試み、結果なんとか7回録音成功。
その7回のテイクから2本選出したのが本作。7本のテイクはどれも素晴らしいもので、その7本の中から最悪な2本を選んだとしても、相当のクオリティのものができたと思う。またこの計7回の録音でも、まだまだ今井の即興ギタリストとしての全貌は捉えきれていないと感じた。逆に録音すればするほど、恐ろしいまでの演奏のヴァリエーションの多様さゆえに、演奏家としての底が深く見えなくなってしまうような凄みさえ感じた。
それだけに、リリースするテイクを選出するのには苦労した。前述の通り、HDDが大音量による振動で停止してしまうほどの轟音。実際ライヴが終わった後、2、3日は耳が遠くなってしまう。このCDを聴く際も、スピーカーで床や壁がミシミシ響くほど大音量で聴いてほしい。これほどの大音量のエレキギターによる即興演奏をやっているのは、世界的にも今井のみのはず。そして、このエレキギターによる大音量の演奏こそ、即興ギタリストとしての今井の真骨頂であると思う。
PSFからリリースされた『Far And Wee』での、ガットギターによる演奏も唯一無二のものであるが、このCDでは、今井の持つ確固たる音楽哲学・美学を反映・具現化したようなあの芯の太いギターの音が生きたまま、それが電気でアンプリファイドされたものを聴くことができる。演奏機会の少なさ、録音成功率の低さ、そしてなにより演奏の質の高さを考慮すると、本作は本当に貴重な作品である。録音もKORGのポータブルレコーダーMR1000によるワンポイントステレオ録音で、スタジオでのマルチトラック録音にはない、まるでオーディエンス録音によるブートレグのような臨場感があり、我ながら非常に気に入っている。
本作のリリースは、即興演奏史において歴史的な出来事である。ノンイディオマティック・インプロヴィゼーションなるものが登場して50年近く経つというのに、まだこれほど斬新さを感じさせる即興演奏による音楽があるとは。デレク・ベイリーの演奏とも異なるし (音量云々抜きにしても、今井自身が言っていたようにデレクがよく聴いたウェーベルンをまた研究し、デレクとは違うベクトルによる、デレクがやっていなかったフィールドでのギターの即興演奏の試みになっている)、今井のギターの師であった高柳昌行とも、大音量による演奏という共通点はあれど、また異なる。師のさらに先を行ってしまった感さえある。左手の運指、右手のピッキング・ストローク、その他小道具による特殊奏法など、ライヴで視覚的に見ても、いよいよ真に独創的だと思える (ライヴDVDなど、映像作品もほしいところ)。
もし本作を手にした方で、今井の大音量エレキギターソロのコンサートを生で聴いたことがないという方がいらっしゃったら、なんとしても一度は生で聴いてほしい (このCDを最低限どれほどの音量で再生したら、実際の演奏と近いニュアンスで聴くことができるか、確認するためにも)。
松岡真吾