Ftarri / Meenna

John Russell / John Butcher / Dominic Lash

But everything now left before it arrived

CD
meenna-962
限定300部
2021年12月12日発売
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  1. I (9:32)
  2. II (5:13)
  3. III (7:44)
  4. IV (6:30)
  5. V (11:22)

    mp3 excerpt: track 1
    mp3 excerpt: track 3
    mp3 excerpt: track 5

John Russell:ギター
John Butcher:サックス
Dominic Lash:コントラバス


ライナーノート (文:すずえり)

ジョン・ラッセルが2021年1月19日に亡くなった。ジョン・ブッチャーとドミニク・ラッシュによるこのアルバムは、遺作の1つということになる。親日家だった彼について語るには私より適任者がいると思うが、2018年と2019年の来日に尽力した Jazz and Now の寺内久氏と武蔵野美術大学のクリストフ・シャルル氏の話も聞きながら、晩年の様子をまとめてみたいと思う。

私がジョンさんに初めて会ったのは、2018年の日本ツアーでだった。前年に心臓のバイパス手術をしたとのことで、その時から体調がすぐれず、巨体な彼は移動もままならず、後述する武蔵美でのレクチャーの時には、半ば巻き込まれたような形でタクシー送迎をした。彼に初めて会った水道橋 Ftarri の公演では、私はツアーに帯同したストーレ・ソルベルグとのデュオを行った。ストーレはもちろん、ジョンとも初対面だったが、英国の赤い公衆電話が全身に描かれている、冗談のようなワンピースを私が着ていたのが彼のツボにはまったようで、その後何かと気にかけてくれるようになったと思う。ジョンさんは大上流一 (g) とのデュオ、それからストーレ、山崎阿弥 (声)、石川高 (笙) [各敬称略] を交えたカルテットを行った。骨太なジョンさんのギターとストーレの柔軟なドラムが日本人それぞれの個性とせめぎ合う、よい演奏だった。

この演奏後、偶然、私が働いている武蔵野美術大学の映像学科でワークショップをするとのことで、数日後に再び会うことになった。武蔵美ではジョン・スティーヴンスの「Search & Reflect」を下敷きとして、2日間のワークショップを行った。聴取と演奏の関係や、SMEやAMM を始めとした欧州の演奏家のアプローチについて、レクチャーを織り交ぜながら進行し、単なる即興演奏のワークショップにとどまらず、欧州 インプロヴィゼーション・シーンのガイドにもなっていた。ポロックの抽象表現主義やスーラの点描といった新印象派の手法を例にあげ、絵画 のアプローチと音を出すことと同等に説明し、またスタニスワフ・レムの「宇宙飛行士ピルクス物語」のイメージで演奏させたり、即興演奏のアプローチが絵画的だったのも美大生には入りやすかったように思えた。なお、ジョンさんは英国人らしいユーモアを交えながら説明していたが、クリストフ・シャルル氏がニコリともせず通訳していたので、冗談が通じているのか若干不安になっていたらしい。シャルル氏は2000年代半ばからジョンさんと交流があり、ロンドンの彼の家も訪れ、即興演奏に関する貴重な資料も見せてもらったとのことだった。ジョンさんは大学でワークショップを行うこと、またアジアで行うことを非常に意義のあることだと考えていたという。

この2日間の授業を発展させる形で、翌2019年、訪問教授として再び武蔵美でワークショップを行った。体調は前年より悪くなっているように思えたが、前年度の内容に彼自身が考えたルールを加えた1週間にわたるワークショップは、学生にとっても、ジョンさんにとっても有意義なものになったのではないかと思う。ワークショップの後は毎日、彼をタクシーでホテルまで送り、宿泊している部屋で夕飯に付き合った。「サブ (豊住芳三郎氏) が『タイムセールの刺し身を狙え』と勧めてくれた」とのことで、駅前のデパ地下で安くなった刺し身を買い、連日生魚を食べることになった。

その後、翌年2020年の3月6日に、放射線治療もできないほどの末期癌であるということを、Facebook で彼自身が報告していた。コロナ禍でロンドンはロックダウンされ、ライヴも難しくなっていたようだが、彼が主催していた Mopomoso のシリーズをオンラインで展開するので協力してほしい、という連絡が来たのは6月上旬のことだった。この Mopomoso TV は、5分の即興演奏の動画を募り、1時間ほどの YouTube 番組にまとめるというもので、10月に入院するまでは彼自身がラインナップを考え、また自宅からそれぞれの動画を紹介していた。彼は、自分の誕生日である12月19日ごろが山場と考えていたようで、その時期にクリスマスの特別番組をしたいということを番組がスタートした時から言っていた。私は彼の意図に気づかず、英国人は半年も前からクリスマスの話をするのかと思っていた。スペシャル番組は12月24日から1月1日にわたり連続で公開されたが、ジョンさんは誕生日の前後に退院して自宅に戻り、家族と一緒に番組を楽しみ年を越すことができたようだった。彼は入院中も精力的に Mopomoso TV の企画を考えていた。11月末ごろ「2月には女性インプロヴァイザーの特集をしたい」と連絡をもらい、私のほうでも何人かに動画をもらおうと連絡し始めていたが、その矢先に訃報を知った。

Mopomoso メンバーは2月の特集を彼の追悼番組に変更し、彼の交友関係から追悼動画を集めた。公募でも動画を募り、結局3時間にもわたる追悼番組となっていた。ジョーク好きのジョンさんのために、ウェットにならないような動画を送ってほしいと公募したが、どうだっただろうか。Mopomoso TV は有志によって引き継がれ、今も毎月第3日曜日の英国時間、午後2時に更新されている。武蔵美でのワークショップもそうだが、60年代欧州の自由即興の時代から彼が進化させてきたものを21世紀にも残していこうという骨太な気概を、彼が亡くなった今も感じている。


英国即興音楽シーンを支えてきた重鎮のひとり、ギター奏者のジョン・ラッセル (John Russell) は2021年1月19日にこの世を去った。1954年12月生まれ。10代後半からロンドンの即興音楽シーンで活動し、長年、英国、欧州はもとより世界中をツアーし演奏してきた。親日家として知られるラッセルは2001年に初来日して以降、幾度となく来日。晩年の2018年と2019年にも2年続けて日本を訪れた。

英国人サックス奏者、ジョン・ブッチャー (John Butcher) は同じ1954年生まれとラッセルとは同世代。英国人コントラバス奏者、ドミニク・ラッシュ (Dominic Lash) は1980年生まれで一世代若いが、ラッセル、ブッチャー、ラッシュの3人はトリオやその他の編成で何度も共演している。3人は2010年12月10日、スコットランド、グラスゴーでの GIO Fest III にトリオで出演。本アルバムには、この時の演奏を収録。CDジャケットには、グラスゴーのギタリストで GIO Fest III に同日出演していた Neil Davidson が英語で、2018年と2019年の来日時にラッセルと会うことの多かったサウンド・アーティストのすずえりが日本語で、それぞれ書いたラッセルの思い出を掲載。


Last updated: December 2, 2021

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